Q6.ゼオライトの挑戦?

A6.

ゼオライトは様々な技術を支える材料として利用されており、構造、組成、形態等により物性が変化するので用途に応じて最適な材料を取揃えることができます。日本では特にゼオライトの応用に関する研究開発が活発に行われてきており、日本ゼオライト学会(及びその前身のゼオライト学会)の会員による、世界に誇るべき成果の一部について紹介します。それぞれの詳細については会誌ゼオライトに解説記事としてまとめられておりますので、ぜひご参照下さい。なお、一部の記事については、参考のためフリーで閲覧できるよう、リンクを設けてあります。

◎吸着・分離(詳細はQ3.を参照
・酸素濃縮
圧力スイング吸着法による空気中からの酸素濃縮[1]に利用され、呼吸器系治療における酸素ガス不足解消の1つの方法とされています。
・二酸化炭素分離
製鉄所等で大量に発生する二酸化炭素の分離回収にもゼオライトを用いた圧力スイング吸着[2]が検討されています。
・膜分離
気体や液体混合物の分離には蒸留など多量のエネルギーを必要とする方法が主流でした。ゼオライト膜を用いた膜分離は共沸する水/エタノール系などにも利用でき、省エネルギーに優れることから注目されています。また、ゼオライト膜は多種多様な成分が含まれる水溶液から目的の成分を分離することにも応用されており、例えば、極めて高い安全性が求められる食品分野への応用も関心を集めています[3]
[1] 吉田智,酸素PSA用LiLSX吸着剤の開発:企業での研究開発紹介,38(4),(2021) 119
[2] 斉間等,茂木康弘,原岡たかし,圧力スイング吸着法による高炉ガスからの大規模CO2分離・回収技術,31(1),(2014) 2
[3] 武脇隆彦,高シリカCHA膜の特徴と応用:食品分野への展開,35(2),(2018) 45

◎イオン交換(詳細はQ4.を参照
・洗剤用ビルダー
1960年代に河川や湖沼の富栄養化による水質汚濁が大きな問題となり、その主な原因の1つに洗剤の水軟化剤として用いられていたリン酸塩が挙げられました。社会的に、洗剤の無リン化が強く要請されていた中で、その解決の鍵となったのはゼオライトです。会誌ゼオライトの記念すべき1号では、洗剤用ゼオライトについて解説されています[4]
・放射性物質除去
放射性汚染水の処理においてゼオライトの陽イオン交換能が有効であることは、米国スリーマイル島原発事故においても実証されていました。福島第一原発事故では海水が混入した大量の放射性汚染水の処理という、より難易度の高い課題に対処する必要がありました。ゼオライトやその類縁物質をベースとし、適切なイオン交換能を持つ吸着剤を開発することで、困難な汚染水処理に大きく貢献しています[5]
[4] 小川政英,洗剤用ゼオライトについて,1(1),(1984) 9
[5] 松倉実,ゼオライトを主体とした放射性物質の吸着剤の開発と応用,35(2),(2018) 64

◎固体触媒(詳細はQ5.を参照
・流動接触分解触媒
近年、化石燃料使用量の低減化やSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が注目されていますが、現代の人類が液状の炭化水素を自在にかつ効率良く活用する術を手にした基盤には流動接触分解(FCC : Fluid Catalytic Cracking)触媒などがあり、その開発の歴史が度々紹介されています[6],[7],[8]
・自動車排ガス浄化
内燃機関から排出される排ガスの浄化材料としても検討されています[9],[10]
[6] 増田立男,FCC触媒としてのゼオライトについて,4(2),(1987) 12
[7] 西村陽一,FCC触媒に用いられるゼオライトの今昔,23(3),(2006) 94
[8] 渡部光徳,プロピレン増産のためのFCC触媒及びアディティブ,24(4),(2007) 125
[9] 加藤克昭,永田誠,小林武史,自動車触媒システムヘのゼオライト利用,19(1),(2002) 11
[10] 堀正雄,林嘉行,梅野高弘,自動車用SCR触媒の現状と課題,36(2),(2019) 38